「AWSではSpot Instanceで8割引きのインスタンスを使っているが、Azureでも同じことができるのか?」
AzureにはAWS Spot Instanceに相当する機能としてSpot VM(スポット仮想マシン)があります。Azureの余剰コンピューティングリソースを活用するため、通常の従量課金VMと比べて最大90%割引で利用できます。ただしAzureのキャパシティが逼迫した場合は、30秒前の通知で強制排除(eviction)される点がAWSとは動作が異なります。
この記事では、
az vm create --priority SpotでSpot VMを作成する手順と、eviction policy(削除ポリシー)の設定方法、AWS Spot Instanceとの違い、強制排除への対策まで、azコマンドの実機出力を交えて解説します。動作確認環境:Azure CLI 2.61 / RHEL 9.4(Azure VM上で動作確認済み)
この記事のポイント
・az vm create --priority SpotでSpot VMを通常VMと同じ手順で作成できる
・eviction policyはDeallocate(割り当て解除)とDelete(削除)の2種類がある
・AWSのSpot Instanceと違い、Azureは30秒前通知で排除される仕様
・開発・検証環境に使い、ステートレス設計にすれば排除リスクを許容できる
でも安心してください。プロのエンジニアはコマンドを暗記していません。
「現場で使える型」を効率よく使いこなしているだけです。
Azure Spot VMとは?(通常VMとの違い)
Spot VMは、Azureのデータセンターで一時的に余剰となっているコンピューティングリソースを活用する仮想マシンです。余剰リソースを割安に提供する代わりに、Azureがリソースを必要とした時点でVMを強制排除(evict)する権利をAzureが持ちます。
通常VMとの違いをまとめます。
| 項目 | 通常VM(Pay-as-you-go) | Spot VM |
|---|---|---|
| 料金 | 定価の従量課金 | 最大90%割引(リアルタイム変動) |
| 可用性 | AzureSLAあり | SLAなし(排除リスクあり) |
| 排除(eviction) | なし | 30秒前通知で強制排除の可能性あり |
| 向いている用途 | 本番環境・ステートフルワークロード | 開発・検証・バッチ処理・CI/CD環境 |
Spot VMが向いているのは「動いていなくても困らない、または再起動で復旧できる」ワークロードです。Webアプリの本番環境やDBサーバーのようなステートフルなワークロードには適しません。開発者がPRごとに立ち上げる一時的な検証環境や、CIパイプラインのビルドエージェント、機械学習のバッチ学習ジョブなどが主な用途です。
Spot VMの価格を確認する
作成前に、対象リージョン・VMサイズのSpot VMの現在価格を確認します。az vm list-skusとaz vm get-spot-placement-scoreが使えますが、価格確認にはaz vm list-sizesよりもAzure Portalの「スポット価格の表示」または価格APIが便利です。
azコマンドで現在のSpot価格履歴(価格は変動するため参考値)を確認するには、次のようにします。
# East Japanリージョンで Standard_B2s のSpot価格を確認する az rest --method get \ --url "https://prices.azure.com/api/retail/prices?api-version=2023-01-01-preview&\$filter=serviceName eq 'Virtual Machines' and armRegionName eq 'japaneast' and skuName eq 'B2s Spot'" \ --query "Items[0].{retailPrice:retailPrice, unitOfMeasure:unitOfMeasure}" # 出力例(価格はリアルタイムで変動) { "retailPrice": 0.00944, "unitOfMeasure": "1 Hour" }
Standard_B2s(2 vCPU・4 GiB RAM)の場合、通常価格が約0.0944ドル/時なのに対し、Spot価格は約0.00944ドル/時となっており、90%割引の水準です。月720時間で計算すると、通常VMが約68ドル/月のところSpot VMは約7ドル/月になります。
Spot VMを作成する手順
実際にazコマンドでSpot VMを作成します。基本的な手順は通常VMと同じで、--priority Spotオプションを追加するだけです。
1. リソースグループとVNetを準備する
Spot VMを配置するリソースグループとVNetを作成します。既に作成済みの場合はスキップしてください。
# リソースグループを作成する(Japaneastリージョン) az group create \ --name rg-spot-demo \ --location japaneast # VNetとサブネットを作成する az network vnet create \ --resource-group rg-spot-demo \ --name vnet-spot-demo \ --address-prefixes 10.2.0.0/16 \ --subnet-name snet-default \ --subnet-prefixes 10.2.0.0/24 # 出力(抜粋) { "newVNet": { "name": "vnet-spot-demo", "addressSpace": {"addressPrefixes": ["10.2.0.0/16"]}, "subnets": [{"name": "snet-default", "addressPrefix": "10.2.0.0/24"}] } }
2. Spot VMを作成する
--priority Spotと--eviction-policyを指定してVMを作成します。
# Spot VMを作成する(eviction policy: Deallocate) az vm create \ --resource-group rg-spot-demo \ --name vm-spot-01 \ --image RedHat:RHEL:9-lvm:latest \ --size Standard_B2s \ --admin-username azureuser \ --generate-ssh-keys \ --priority Spot \ --eviction-policy Deallocate \ --max-price -1 \ --vnet-name vnet-spot-demo \ --subnet snet-default \ --public-ip-sku Standard # 作成完了後の出力(抜粋) { "powerState": "VM running", "publicIpAddress": "52.185.xxx.xxx", "privateIpAddress": "10.2.0.4", "resourceGroup": "rg-spot-demo", "id": "/subscriptions/xxxxxxxx/resourceGroups/rg-spot-demo/providers/Microsoft.Compute/virtualMachines/vm-spot-01" }
主なオプションの意味をまとめます。
・--priority Spot:Spot VMとして作成する(省略すると通常VMになる)
・--eviction-policy Deallocate:排除時にVMを停止・割り当て解除する(次節で詳説)
・--max-price -1:-1はSpot価格の上限を設けない設定。通常価格まで許容する意味で排除されにくい
3. 作成したSpot VMの設定を確認する
VMの優先度とeviction policyが正しく設定されているか確認します。
# VMの詳細情報からSpot設定を確認する az vm show \ --resource-group rg-spot-demo \ --name vm-spot-01 \ --query "{priority:priority, evictionPolicy:evictionPolicy, billingProfile:billingProfile}" \ --output json # 確認できる出力 { "priority": "Spot", "evictionPolicy": "Deallocate", "billingProfile": { "maxPrice": -1.0 } }
priorityがSpot、evictionPolicyがDeallocateになっていれば正しく設定されています。
SSH接続して動作を確認します。SSHポートが開いているかはLinux ポート確認の全コマンドも参照してください。
# PC側からSpot VMにSSH接続する ssh -i ~/.ssh/id_rsa azureuser@52.185.xxx.xxx # Spot VM上でホスト情報を確認する [azureuser@vm-spot-01 ~]$ hostname vm-spot-01 [azureuser@vm-spot-01 ~]$ cat /etc/redhat-release Red Hat Enterprise Linux release 9.4 (Plow) # VM上でazコマンドの動作を確認する(Managed Identity不使用の場合はスキップ) [azureuser@vm-spot-01 ~]$ curl -s -H Metadata:true \ "http://169.254.169.254/metadata/scheduledevents?api-version=2020-07-01" | python3 -m json.tool { "DocumentIncarnation": 1, "Events": [] }
Eventsが空配列なら排除スケジュールはありません。排除予定がある場合はPreemptイベントが現れます(次節で詳説)。
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eviction policy(削除ポリシー)の設定
Spot VMが強制排除される時の動作は、--eviction-policyで2種類から選べます。どちらを選ぶかによって、排除後のコストと復旧方法が変わります。
1. Deallocate(割り当て解除)とDelete(削除)の違い
| 設定値 | 排除後の動作 | OSディスク | 費用 | 向いている用途 |
|---|---|---|---|---|
| Deallocate(割り当て解除) | VMが停止し、割り当て解除状態になる | 残る(ストレージ課金あり) | 停止中はコンピュート料金なし。ストレージ料金は継続 | 停止後に手動で再起動して作業継続したい場合 |
| Delete(削除) | VMとOSディスクが自動的に削除される | 削除される | 排除後の課金ゼロ(ストレージも消える) | ステートレス設計・CI/CDビルドエージェント・コスト最優先 |
Deallocateは検証環境でよく使います。排除されてもディスクとデータが残るため、Azureのキャパシティが回復した後にaz vm startで再起動して作業を続けられます。
Deleteはコストを最小化したい場合に有効です。ビルド完了後に自動削除されるCI/CDエージェントや、スクリプトで毎回新規作成するステートレス環境に向いています。ただし排除のたびにOSディスクも削除されるため、データは事前にAzure Blob StorageやAzure Filesに退避する設計が必要です。
2. max-price(最大価格)で排除頻度をコントロールする
--max-priceに金額(ドル/時)を指定することで、Spot価格がこの値を超えた時点でVMを排除させることができます。
・--max-price -1:価格上限なし。Spot価格がどれだけ上昇しても、Azureのキャパシティ不足時のみ排除される(最も排除されにくい)
・--max-price 0.05:Spot価格が0.05ドル/時を超えたら排除される(価格ベース排除)
開発・検証環境では--max-price -1の設定が一般的です。価格上限を設けると、混雑時に意図せずVMが停止するリスクが増します。
# max-priceをVM作成後に変更する場合(停止状態から変更可能) az vm stop --resource-group rg-spot-demo --name vm-spot-01 az vm update \ --resource-group rg-spot-demo \ --name vm-spot-01 \ --max-price 0.05 az vm start --resource-group rg-spot-demo --name vm-spot-01
3. Scheduled Events APIで排除予告を検知する
Azureは排除の30秒前に、VMのメタデータサービス(169.254.169.254)経由でイベントを通知します。VMの内部からポーリングして、排除前にデータを保存する仕組みを実装できます。
# VM内部からScheduled Eventsをポーリングするスクリプト例 # /usr/local/bin/spot-drain.sh として保存する #!/bin/bash METADATA_URL="http://169.254.169.254/metadata/scheduledevents?api-version=2020-07-01" while true; do EVENTS=$(curl -s -H "Metadata:true" "${METADATA_URL}" | python3 -c " import sys, json data = json.load(sys.stdin) events = data.get('Events', []) preempt = [e for e in events if e.get('EventType') == 'Preempt'] print(len(preempt)) ") if [ "${EVENTS}" -gt 0 ]; then echo "[$(date)] Preempt event detected. Starting drain..." # ここにデータ保存・ジョブ停止の処理を記述する sync break fi sleep 5 done
このスクリプトをsystemdサービスとして常駐させておくと、排除直前にデータを同期したりジョブを安全に終了させたりできます。
AWS Spot InstanceとAzure Spot VMの比較
AWSのSpot Instanceを使い慣れているLinuxエンジニアがAzureに移行する際に、最も混乱しやすいのが排除の仕組みの違いです。主な差異を比較します。
| 項目 | AWS Spot Instance | Azure Spot VM |
|---|---|---|
| 排除の通知時間 | 2分前に通知(Spot Instance interruption notice) | 30秒前に通知(Scheduled Events API) |
| 価格モデル | オークション廃止済み。AWSが設定する変動価格 | Azureが設定する変動価格(-1で上限なし指定可) |
| 排除ポリシー | terminate(停止+削除)またはhibernate(休止) | Deallocate(割り当て解除)またはDelete(削除) |
| Spot Fleet相当 | EC2 Spot Fleet / Auto Scaling Group | Azure VMSS(Virtual Machine Scale Set) |
| 通知取得方法 | インスタンスメタデータサービス(169.254.169.254) | Azure Scheduled Events API(同じエンドポイント) |
| 価格確認方法 | AWS Price List API / コンソール | Azure Retail Prices API / コンソール |
最も注意すべき違いは通知時間です。AWSは2分前に通知するため、ある程度の猶予があります。AzureのSpot VMは30秒前通知なので、シャットダウン処理に2分以上かかる処理(DBのチェックポイント等)は間に合いません。Spot VMを本格活用するなら、30秒以内に完了できる軽量なドレイン処理のみを実装し、それ以上のデータ保護は事前に定期バックアップで対処するのが現実的です。
Spot VMが強制排除された後の対処
Spot VMが排除されると、eviction policyに応じてVMの状態が変わります。
1. Deallocate後の再起動手順
eviction policyがDeallocateの場合、VMは停止・割り当て解除状態になります。Azureのキャパシティが回復すれば再起動できます。
# VMの現在の状態を確認する az vm show \ --resource-group rg-spot-demo \ --name vm-spot-01 \ --show-details \ --query "{powerState:powerState, provisioningState:provisioningState}" # 排除後の状態(割り当て解除) { "powerState": "VM deallocated", "provisioningState": "Succeeded" } # VMを再起動する(キャパシティが空いていれば起動する) az vm start \ --resource-group rg-spot-demo \ --name vm-spot-01
ただしキャパシティが逼迫したリージョン・VMサイズでは、az vm startがエラーになる場合があります。その場合は別のサイズ(例:Standard_B2s → Standard_D2s_v5)への変更、または別リージョンへの再作成を検討します。
2. Spot VMのeviction履歴を確認する
VMがいつ排除されたかは、Activity Logから確認できます。
# Activity LogからSpot VMのevictionイベントを確認する az monitor activity-log list \ --resource-group rg-spot-demo \ --start-time "2026-07-01" \ --query "[?operationName.value=='Microsoft.Compute/virtualMachines/deallocate/action'].{time:eventTimestamp, status:status.value}" \ --output table # 出力例 Time Status ---------------------------- --------- 2026-07-25T04:17:32.141983Z Succeeded
実務Tips(Spot VM活用のベストプラクティス)
現場でSpot VMを安全に活用するためのポイントをまとめます。
・ステートレス設計を徹底する:OSディスクにデータを持たせない。アプリケーションの作業データはAzure Blob StorageやAzure Filesに書き出す設計にする
・VMSSのSpotモードを使う:スケールセット(VMSS)でもSpot VMを使える。複数VMを管理する場合はVMSSの--priority Spotで一括管理する方が効率的
・複数VMサイズを許容する:特定のVMサイズに固執するとキャパシティ不足で起動できない時間が増える。同等スペックの複数サイズを候補にすると起動率が上がる
・夜間・週末はDealloc:検証環境は業務時間外に手動またはAutomationで停止しておくと、Spot割引と組み合わせてさらにコスト削減できる
・タグで本番とSpotを区別する:az vm create --tags env=spotのようにタグを付けておくと、コスト分析やAutomation処理で通常VMと区別しやすい
トラブルシュート(Spot VMが起動しない・排除が多い時)
1. SkuNotAvailable(サイズが利用不可)エラー
「The requested VM size is not available in the current region.」というエラーが出る場合、対象リージョン・VMサイズのSpotキャパシティが枯渇しています。
# japaneastでSpot VMとして使えるVMサイズを確認する az vm list-skus \ --location japaneast \ --size Standard_B \ --all \ --query "[?restrictions[?type=='Zone' || type=='Location'] | length(@) == \`0\`].name" \ --output tsv | head -10 # 出力例(Spotで利用可能なBシリーズ) Standard_B1ls Standard_B1ms Standard_B1s Standard_B2ms Standard_B2s Standard_B4ms
制限(restrictions)が空のサイズはSpot VMとして利用可能です。エラーが出たら別のサイズ(例:Standard_B2s → Standard_B2ms)に切り替えます。
2. 排除頻度が高い場合
特定のVMサイズで排除が頻発する場合、そのサイズのSpot需要が高い状態です。次の対策を試します。
・VMサイズを変更する:Dシリーズ、Eシリーズなど汎用性の高いサイズは競合が少ない場合がある
・リージョンを変更する:JapanEast → JapanWest など、同一データセンター圏内の別リージョンを試す
・max-priceを上げる:価格ベースの排除が発生している場合は上限を引き上げるか、-1(上限なし)に設定する
3. VMが起動直後に排除される
作成直後にすぐ排除される場合はキャパシティ不足が深刻な状態です。az vm get-instance-viewのステータスで確認します。
# VMのインスタンスビューで詳細ステータスを確認する az vm get-instance-view \ --resource-group rg-spot-demo \ --name vm-spot-01 \ --query "instanceView.statuses[].displayStatus" \ --output tsv # 通常稼働中の出力 Provisioning succeeded VM running # 排除後の出力 Provisioning succeeded VM deallocated
本記事のまとめ
Azure Spot VMでコストを削減するための主要な操作をまとめます。
| やりたいこと | コマンド |
|---|---|
| Spot VMを作成する(Deallocateポリシー) | az vm create --priority Spot --eviction-policy Deallocate --max-price -1 |
| Spot VMを作成する(Deleteポリシー) | az vm create --priority Spot --eviction-policy Delete --max-price -1 |
| VMのSpot設定を確認する | az vm show --query "{priority:priority, evictionPolicy:evictionPolicy}" |
| Spot価格を確認する | az rest --url "https://prices.azure.com/api/retail/prices..." |
| 排除後のVMを再起動する | az vm start --resource-group RG名 --name VM名 |
| 排除イベントをActivity Logで確認する | az monitor activity-log list --resource-group RG名 |
| 排除予告をVMメタデータから確認する | curl -s -H Metadata:true "http://169.254.169.254/metadata/scheduledevents..." |
| 利用可能なSpot対応サイズを確認する | az vm list-skus --location リージョン --size サイズ --all |
Azure Spot VMはaz vm createに--priority Spotを追加するだけで、通常VMと同じ操作で最大90%割引のコンピューティングリソースを使えます。eviction policyをDeallocateにすれば排除後もデータが残り、Deleteにすれば完全ステートレス運用でコストをゼロに近づけられます。
AWSのSpot Instanceに慣れているエンジニアは「30秒通知」のスピード感に注意して、Spot VMの排除に備えた設計(データの外部化・ドレイン処理の簡素化)を事前に組み込むことが実務での安定運用につながります。
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