この記事の監修:宮崎智広(Linux実務・教育歴20年以上・受講者3,100名超)
2026年5月20日、HP社がLinux向け印刷ソフトウェア「HPLIP(HP Linux Imaging and Printing)」の深刻な脆弱性2件を公表しました。CVSS 9.3の致命的な整数オーバーフローと、CVSS 8.5のコマンドインジェクションです。
この記事では、CVE-2026-8631/CVE-2026-8632の内容、影響範囲、修正方法、そしてLinuxサーバーで印刷機能を使う際の運用上の注意点を、20年以上のLinux運用経験から整理します。
この記事のポイント
・HPLIP 3.26.4未満のバージョンに権限昇格・任意コード実行の脆弱性が2件存在
・CVE-2026-8631(CVSS 9.3クリティカル)は整数オーバーフローによる権限昇格
・CVE-2026-8632(CVSS 8.5高)はコマンドインジェクションによる任意コード実行
・修正版はHPLIP 3.26.4以降。dnf/aptで早急に更新を実施する
・印刷機能が不要なサーバーはhplip・hplip-commonのパッケージごと無効化も検討
でも安心してください。プロのエンジニアはコマンドを暗記していません。
「現場で使える型」を効率よく使いこなしているだけです。
HPLIPとは|Linuxにおける位置付け
HPLIP(HP Linux Imaging and Printing)は、HP社が公式提供しているLinux向けのプリンター・スキャナードライバ群です。主要なLinuxディストリビューションに標準的に同梱されており、多くの環境で意識されないまま動作しています。HPLIPがインストールされる典型的なケースは次のとおりです。
・デスクトップLinux:Ubuntu、Fedora、openSUSEなど。デフォルトで導入されることが多い
・RHEL系サーバー:cups、cups-filtersとセットで導入されている場合がある
・業務サーバー:印刷サーバー機能を提供している場合は明示的に有効化されている
重要なのは「使っていなくても入っている」ケースです。RHEL 8/9系のフルインストール、Ubuntu Desktop、Fedora Workstationなどは、何もしなくてもhplip関連パッケージが入っている前提で運用設計されています。
今回公表された脆弱性の詳細
HP社が2026年5月20日に公表した脆弱性は、以下の2件です。| 項目 | CVE-2026-8631 | CVE-2026-8632 |
|---|---|---|
| CVSSスコア | 9.3(クリティカル) | 8.5(高) |
| 脆弱性タイプ | 整数オーバーフロー | コマンドインジェクション |
| 引き金 | 細工された印刷データ処理時 | 低権限ユーザーからの実行 |
| 影響 | 権限昇格、任意コード実行 | 権限昇格、任意コード実行 |
| 対象バージョン | 3.26.4未満 | 3.26.4未満 |
| 修正バージョン | 3.26.4以降 | 3.26.4以降 |
| 公表日 | 2026年5月20日 | 2026年5月20日 |
1. CVE-2026-8631|整数オーバーフロー
細工された印刷データを処理する際、整数オーバーフローが発生する脆弱性です。攻撃者は、特殊なデータを印刷キューに投入することで、HPLIPプロセスの権限で任意コードを実行できる可能性があります。CVSS 9.3はクリティカル評価で、Apacheなどミドルウェアの致命的脆弱性と同レベルの深刻度です。印刷サーバーを公開している環境、複数ユーザーが使う共有環境では、優先的にパッチ適用が必要です。
2. CVE-2026-8632|コマンドインジェクション
低権限ユーザーが必要となるものの、権限昇格や任意コード実行が可能となるコマンドインジェクションの脆弱性です。CVSS 8.5は「高」評価で、こちらも放置できないレベルです。コマンドインジェクションは、HPLIPがユーザー入力を適切にエスケープせずシェル経由で処理している箇所が存在することを意味します。ローカルログインできるユーザー、あるいはWeb管理画面経由でHPLIPを操作できる経路がある場合、root権限を取られるリスクが現実的です。
影響範囲の確認方法
自分のLinux環境がこの脆弱性の影響を受けるかどうかは、コマンドラインから確認できます。1. RHEL / Rocky Linux / AlmaLinux系
# HPLIPがインストールされているか確認 rpm -qa | grep hplip # バージョン確認 rpm -q hplip # 出力例: hplip-3.21.12-13.el9.x86_64 # プロセスの実行状況確認 systemctl status hplip ps aux | grep hplip | grep -v grep
2. Ubuntu / Debian系
# HPLIPがインストールされているか確認 dpkg -l | grep hplip # バージョン確認 hp-info -v 2>/dev/null | head -5 apt-cache policy hplip
修正手順|パッケージ更新の実施
ディストリビューションごとに、適切な更新手順を実行します。1. RHEL / Rocky Linux / AlmaLinux系
# 更新可能なパッケージを確認 sudo dnf check-update hplip # 個別パッケージのみ更新 sudo dnf update hplip hplip-common hplip-libs -y # 関連サービスの再起動 sudo systemctl restart cups
2. Ubuntu / Debian系
# パッケージリスト更新 sudo apt update # HPLIP関連のみ更新 sudo apt install --only-upgrade hplip hplip-data hplip-doc # サービス再起動 sudo systemctl restart cups
不要なら無効化|「使っていない」のがいちばん安全
20年以上Linuxサーバーを運用してきた経験から言うと、「使っていないサービス・パッケージは外す」のが、もっとも確実な脆弱性対策です。1. HPプリンターを使っていないサーバーの判断
以下に該当する場合、HPLIPは不要です。・印刷機能を持たないバックエンドサーバー(Web、DB、APIなど)
・印刷していてもHP製プリンターではない(Canon、Brother、Epsonなど)
・印刷はWindowsクライアント側で完結し、Linux側からは送らない
2. HPLIPの安全な無効化手順
# 関連サービスの停止 sudo systemctl stop hplip sudo systemctl disable hplip # パッケージの削除(RHEL系) sudo dnf remove hplip hplip-common hplip-libs # パッケージの削除(Ubuntu系) sudo apt purge hplip hplip-data hplip-doc # 不要な依存パッケージの整理 sudo dnf autoremove # RHEL系 sudo apt autoremove # Ubuntu系
運用上の教訓|「気付かないうちに入っているもの」を棚卸しする
今回のHPLIP脆弱性は、「使っていないのにインストールされているパッケージ」が抱えるリスクを再認識させる事例です。セミナーで3,100名以上を指導してきた中で、運用現場でよく見るパターンを共有します。・OS標準同梱の罠:RHEL/Ubuntuのフルインストールで自動導入される非必須パッケージが、忘れた頃に脆弱性ニュースに登場する
・最小インストールの徹底:本番サーバーは「minimal install」+必要パッケージ追加方式が原則
・定期棚卸し:
rpm -qa や dpkg -l の出力を年1回でも見直し、用途不明のパッケージを削除する参考書籍|Linuxセキュリティ運用の基本を体系的に学ぶ
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こうしたパッチ運用・パッケージ管理を体系的に学ぶには、Linuxの基本書が役立ちます。CVE対応・脆弱性管理の現場感覚を身につけたい方におすすめです。・Linux教科書 LPICレベル1 Version5.0対応(翔泳社):パッケージ管理・サービス管理の基本を網羅
・標準テキスト CentOS 8 構築・運用・管理パーフェクトガイド:dnf/yum運用の実務的ノウハウが詳細
本記事のまとめ
| 対応事項 | 具体的なアクション |
|---|---|
| 影響確認 | rpm -q hplip または dpkg -l | grep hplip で確認 |
| 修正版 | HPLIP 3.26.4以降に更新 |
| 更新コマンド(RHEL系) | sudo dnf update hplip hplip-common hplip-libs |
| 更新コマンド(Ubuntu系) | sudo apt install --only-upgrade hplip hplip-data |
| 不要なら削除 | sudo dnf remove hplip または sudo apt purge hplip |
| CVE-2026-8631 | CVSS 9.3クリティカル/整数オーバーフロー |
| CVE-2026-8632 | CVSS 8.5高/コマンドインジェクション |
公表されたばかりの脆弱性ですが、デスクトップLinux環境を含めると影響範囲は広めです。サーバー側の更新と同時に、開発者・運用担当者の個人端末(Ubuntu Desktop、Fedora Workstation)の更新も忘れずに行いましょう。
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